翻訳業務を効率化するTMS(翻訳管理システム)の活用法と将来性

by TMJ JAPAN

近年、グローバル化の進展に伴い、多言語コンテンツの需要が高まっています。それに伴い、翻訳プロジェクトの規模も拡大し、より効率的な翻訳管理が求められるようになりました。そこで注目されているのが、TMS(Translation Management System)です。今回は、TMSの概要や機能、導入のメリットなどを解説するとともに、今後の展望についても考察します。

目次

TMSとは

TMSとは、翻訳プロジェクトを一元管理するためのシステムです。翻訳メモリ(TM)、用語集、プロジェクト管理機能などを統合し、翻訳ワークフローの効率化を図ります。

例えばプロジェクト管理の面では、進捗状況や締め切りの管理やタスク管理、ファイルやコメントのやり取り、履歴や実績データの蓄積などを、一つのシステムで行う事が可能です。

これにより、メールでのやり取りや別のツールでのタスク管理等が不要になり、効率的にプロジェクトを進めていく事ができます。

また、CATツールでも翻訳メモリや用語集の機能は備わっていますが、個人で管理する事が多くバラ付きが生じやすいという課題がありました。この課題も、TMSで一元管理する事で解消されるでしょう。

TMSの導入には一定の費用がかかりますが、特に大規模なプロジェクトを行う際には、欠かせないツールになりつつあると言えます。

CATツールとは

TMSの主な機能
TMSでどのような事ができるのか理解しておきましょう。

主なTMSサービス

さまざまな会社からTMSサービスが提供されており、翻訳会社の規模やニーズによって、どのサービスを選択するかを決めると良いでしょう。

ただし、TMSは大規模な翻訳プロジェクトを扱う翻訳会社では一般的に導入されていますが、小規模な翻訳会社や個人の翻訳者の間ではまだあまり普及していないようです。

SDL Trados Studio

世界で最も広く使われている翻訳支援ツールの一つで、TMSの機能も備えています。翻訳メモリ、用語集、機械翻訳との連携など、翻訳に必要な機能を網羅しており、プロジェクト管理機能により、大規模な翻訳プロジェクトにも対応可能です。

Memsource

クラウドベースのTMSで、シンプルなUIで操作性が高く、初めてTMSを導入する企業にも適していると言えるでしょう。30種類以上の機械翻訳エンジンと連携可能で、翻訳コストの削減にも貢献してくれます。500以上の言語、50種類以上のファイル形式に対応可能です。

Phrase

ソフトウェアローカライゼーションに特化したTMSで、開発者向けの機能が豊富にあり、CIツールとの連携も可能です。翻訳コストの見積もりや価格表の作成機能を備えており、分析ダッシュボードで翻訳プロジェクトの進捗や実績を可視化することもできます。

TMS導入のメリット
TMSを導入することで得られるメリットを考えると、特に大規模なプロジェクトには導入している翻訳会社が安心と言えるかもしれません。

TMSを導入した場合のワークフローとしていない場合のワークフローを比較

TMSを導入することで、プロジェクト管理、翻訳メモリ・用語集の一元管理、コラボレーションの円滑化など、翻訳ワークフローが効率化されます。一方、TMSを導入していない場合は、手作業での管理が多くなり、情報の共有や再利用が難しくなります。

ただし、TMSの導入にはコストがかかるため、翻訳プロジェクトの規模や頻度、予算などを考慮して、導入の是非を判断する必要があります。

【TMSを導入している場合の翻訳ワークフロー】

1.翻訳依頼の受付
クライアントからの翻訳依頼をTMS上で受け付けます。プロジェクトの詳細(言語ペア、納期、ファイル形式など)を確認します。

2.翻訳プロジェクトの作成
TMSで新しい翻訳プロジェクトを作成し、翻訳メモリや用語集を選択または新規作成します。

3.原文ファイルのアップロード
クライアントから受け取った原文ファイルをTMSにアップロードします。TMSが自動的にファイルを解析し、翻訳メモリと照合します。

4.翻訳作業の開始
TMSが翻訳メモリを活用して、原文を自動的に分節(セグメンテーション)します。翻訳者はTMS上で翻訳作業を進めます。

5.翻訳メモリの活用
翻訳者は、TMSが提示する翻訳メモリの中から最適な訳文を選択・適用します。これにより、翻訳作業の効率化と品質向上が図れます。

6.用語集の活用
TMSの用語集機能を使って、用語の統一を図ります。専門用語や企業固有の用語を適切に訳出することで、翻訳の一貫性が保てます。

7.校閲とフィードバック
翻訳が完了したら、校閲者がTMS上で翻訳をレビューします。コメント機能を使ってフィードバックを行い、必要に応じて修正を依頼します。

8.納品
最終的な翻訳ファイルをTMSからエクスポートし、クライアントに納品します。TMSに翻訳メモリが蓄積されるため、次回以降の翻訳で再利用できます。

【TMSを導入していない場合の翻訳ワークフロー】

1.翻訳依頼の受付
クライアントからの翻訳依頼をメールなどで受け付けます。

2.原文ファイルの受領
クライアントから原文ファイルを受け取ります。

3.翻訳作業の開始
翻訳者は、翻訳支援ツール(CATツール)や文書作成ソフトを使って翻訳作業を進めます。過去の翻訳データを参照する場合は、手動で探す必要があります。

4.用語の統一
用語集がある場合は、それを参照しながら翻訳します。ない場合は、翻訳者の判断で用語を統一します。

5.校閲とフィードバック
翻訳が完了したら、校閲者が別ファイルでレビューします。コメントや修正指示をメールなどで翻訳者に伝えます。

6.納品
最終的な翻訳ファイルをメールなどでクライアントに納品します。翻訳メモリは個人で管理することになります。

TMSの今後の展望

今後、機械翻訳の精度向上に伴い、TMSと機械翻訳の連携がさらに進むと予想されます。機械翻訳による下訳を活用しつつ、TMSで管理・共有することで、翻訳の生産性は飛躍的に向上するでしょう。

また、TMSのAI化も進むと考えられます。翻訳メモリの中から最適な訳文を自動で提示したり、プロジェクトの自動割り当てを行ったりと、AIによる効率化が期待できます。

一方で、TMSの導入にはまだ課題もあります。ツールの習熟に時間がかかることや、既存の翻訳フローを変更する必要があることなどから、導入をためらう企業も少なくありません。TMSのユーザビリティ向上と、導入サポートの充実化が求められるでしょう。

まとめ

TMSは、翻訳プロジェクトの効率化と品質向上に大きく貢献するツールです。グローバル化が加速する中、TMSの重要性はますます高まっていくでしょう。

多言語コンテンツを扱う企業にとって、TMSの導入は競争力強化につながる戦略的な投資といえます。TMSと機械翻訳の連携やAI活用など、テクノロジーの進化とともにTMSも進化を遂げていくに違いありません。

導入企業には、自社の翻訳フローに適したTMSを選定し、新しい翻訳管理手法にチャレンジしていく柔軟性が求められます。変化の激しい時代だからこそ、TMSを味方につけて、グローバルな挑戦を続けていきましょう。

TMJ JAPAN

東京都品川区にある翻訳会社です。日英翻訳を中心に、他言語に渡る翻訳・通訳サービスを提供する翻訳会社・通訳会社です。

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